大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和30年(う)3513号 判決

被告人 鈴木利男

〔抄 録〕

弁護人Wの控訴趣意第一点について。

刑法第二三八条にいわゆる準強盗罪(または事後強盗罪)の構成要件たる「暴行」とは、同法第二三六条における「暴行」の意義との均衡上相手方の抗争を抑圧する程度のものたることを要するは所論のとおりである。然し、その抑圧とは、右第二三六条の場合には財物奪取を防禦するために消極的になされる反抗を圧伏することを意味するに反し、第二三八条の逮捕関係の場合には窃盗犯人を逮捕せんとして積極的に加えられる拘制を排除することを指称し、従つて、前者においては財物奪取の目的に発するものであるのに後者においては犯人自身の庇護を目的とするものであるから、齊しく抑圧というも各目的および方向上に彼此相違がある。而して、その暴行が当該逮捕のための拘制を抑圧する程度のものなりや否やは具体的各場合の実状に照らして客観的に判断せらるべき事柄であり、その暴行を受けた者の被害に関する意識状態の如きは斯る判断の一基準たり得るに過ぎない。

これを本件について観るに、原判示によれば被告人は同判示米穀を窃取した後その被害者たる国井カネおよび同人の女子たる国井チイほか一名に発見され腕等を掴んで逮捕されんとするや、その逮捕を免れるため右チイの両腕に噛みつく等の暴行を加えることにより同女等を振りはなして逃走したのである。而して、その噛みつかれた当時右チイ自身は既にそのことを直感したが、それでも、なお被告人にしがみついていたのに、被告人の方で暴れて同女等の押えている手を振りほどして逃げ去つたものなることは原判決引用にかかる国井チイの検察官に対する供述調書その他の証拠によつて明らかである。これは前記の如く右チイ等が逮捕せんとして被告人に加えた拘制を被告人が暴行によつて排除し遂げたものであり、これにより刑法第二三八条所定の準強盗罪の成立ありと認めるに十分である。

而して、更に、右チイは右の如く噛みつく暴行を受けた結果両腕に皮下出血の傷害を被つたことも原判決引用の証拠上明らかであるから、これにより刑法第二四〇条にいわゆる強盗人を傷した場合に該当することも当然である。而して所論原審証人国井カネの供述その他原審取調の証拠を汎く検討しても原判決に所論のような事実誤認の廉ありとは認められないから、原判決において被告人の本件所為を準強盗傷人の一罪と認めたのは正当であり、従つて、これを以て窃盗および傷害の併合罪なりとの所論は到底肯認することができないから、原判決には所論のような法令適用上の誤あるものでもない。論旨は孰れの点よりみるも理由がない。

(久礼田 武田 石井文)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!